平成7年6月に「東洋はり医学会」より独立して「漢方鍼医会」が設立されました。地方組織として名古屋漢方鍼医会み今年で27年目を迎えました。
 毎月の定例会、年に一度の全国大会「夏季学術研修会」などを通して会員の学術向上をはかっています。 最近は学生の参加者や女性の参加者が増えて雰囲気が随分明るくなってきたような気がします。これからは伝統鍼灸の啓蒙に勤め、多くの人に鍼の素晴らしさを伝えて行きたいと考えています。

 病の根本を知り、人の心の有り様を知る。これらは、古代中国の医書や賢人の思想書として多くが残されています。そのうちの一つ、素問という古典医書の冒頭に「恬憺虚無 真気従之 精神内守 病安従来・・・」(注1.下記参照)という言葉があります。すこし難しそうですが、この意味を簡単に言ってしまえば、「心が穏やかで安らかであれば病魔は寄って来ないよ・・・」という意味です。
そうです、健康であるためには、穏やかで心安らかであることが大切なのです。

 私たちの治療室に来院される方々は、さまざまな悩み、ストレスを抱えながら身体を痛めています。仕事がうまく行かず夜眠れない、人間関係に悩んで胃が痛む、病院へ行ったけれど異常なしと言われて困っている、などなど。さまざまな不安や恐れを抱いて身体の不調を訴えます。では、いったいどうしたら心が穏やかで安らかに健康になれるのでしょうか?

 名古屋漢方鍼医会では、古代中国の気の医学を基本に、伝統鍼灸を臨床に役立つ実学を旨とし日々研鑽しています。手足に施すわずかな鍼やお灸の刺激で体の気の流れを整える施術は、のぼせやほてりが消え去り、足の冷えやむくみが取れ、余分な汗や水を抜きさります。不快な痛みが消え、内と外の寒と熱のバランスが整ってくれば、治癒力が増し身体は回復の方向へ向かいます。鍼灸師の語る東洋思想の知恵を心の支えに養生をすれば、自然と心穏やかで安らかになれるのです。

 本会のモットーは、参加者全員で学びあい、教えあうというものです。治療の経験が何十年というベテランの先生から、これから鍼灸を学ぼうという学生までいろいろな人々が集い、ただ一方的に経験者が指導教育をするというものではなく、それぞれが自分の意見や疑問を投げかけ、学び教えあい、現代の医療に応え得る鍼灸術を発展させていくことを目指しています。本会の具体的な研修内容は、「定例会」の項を参照ください。

漢方鍼医会と名古屋漢方鍼医会ついて
名古屋漢方鍼医会の基本的な活動の方針は、本部(東京)である漢方鍼医会に準拠しています。本会は地方組織ですが自由活発な会運営ができればと思っています。「名古屋漢方鍼医会ここにあり」という気概をこれからも持ち続けたいものです。

 名古屋漢方鍼医会は初代会長である天野康之先生、副会長の斉藤誉一先生、本会の重鎮、堤卓郎先生、実力者であった、今は亡き河合悟先生をはじめとして、多くの諸先生のご尽力によってここまでやって参りました。ほんとうにありがとうございました。また更なるご指導、ご鞭撻を賜りたく存じます。

 これからも諸先輩の志を受け、桃李不言(注2)の格言にもあるような、花も実もある鍼灸人の集う会になるよう尽力することを決意し、ご挨拶と代えさせていただきます。ありがとうございます。

注1)『黄帝内経素問』 上古天真論篇 第一偏
「恬憺虚無 真気従之 精神内守 病安従来 ・・・」
(てんたんきょむならば 真気これに従い 精神うちを守り 病いずくんぞ従い来たらん ・・・)
 こころ静かで安らかであれば、身体の生体エネルギーが全身をあまねく巡り、精神が自然治癒力、免疫力を高めて身体を守ってくれるので、病気になるはずかない・・・

注2) 桃李不言 下自成蹊【司馬遷・史記 李将軍伝賛】
(とうりものいわざれども、したおのずからけいをなす)
 桃やすももは何も言わないが、花や実を慕って人が多く集まるので、その下には自然に道ができる。徳望のある人のもとへは人が自然に集まることのたとえ

 当会には鍼灸の有資格者だけではなく、鍼灸学校の学生も多数参加しており、幅広い年代にわたって同じように学んでおります。
 また古典的鍼灸治療の初心者から、ベテランまで安心して学べるよう、入門講座と研修部の二部に分けて、研修しています。
 会運営が円滑に行われるように初心者からベテランの先生まで世代の垣根をこえ、親睦が深まるようバーベキューや忘年会等を毎年企画しています。
 研修会の講義だけでなく、こういった親睦会を通して、会員同士で意見交換をし、交流がより深まるよう努めています。

 「私は鍼が合う体質」、「私は鍼が合わない体質」という言葉をよく耳にします。
 これは以前鍼治療を受けたけれどよく効いたから「鍼が合う体質」、効かなかったから「鍼が合わない体質」ということを言っているのだと思います。
 しかし本来鍼治療というものは、慰安目的だけのものではなく、れっきとした東洋医学であり、我が国も西洋医学が入ってくる前は、様々な病気をこの東洋医学における鍼灸等で治していたわけです。
ですから体質的に鍼が合う、合わないということはないはずです。
 当会は古典的鍼灸術を行うことにより、たんに患部だけの治療でなく患者さんの体質等を見極め、全身の治療を行い、体力をつけることにより自然治癒力を高め、病を治癒へと導く方法をとっています。
 そこには体質的に鍼が合う、合わないといったことはありません。
 脈診により脈を診て、患者さん本人も気付かない病の本質を見抜き、「痛くない鍼」で治療する。
 そんな本会の治療、一度お試しください。

 本会は、中国伝統医学を基盤にした鍼灸術を「漢方はり治療」と称し、学術の向上に日々取り組んでいます。

 中国伝統医学の根幹は、気の医学であります。全ての人の身体内部の気は、外部の自然の気のうちにあって、人はそれと調和を計って生きています。気を包み持った身体を保持しているとも言えます。そして、我々はこの気のめぐり動く身体を診察していきます。人の気を診察するとは言うものの、見えない気をどのように捉えていくのか疑問を抱くのは当然の理です。そこには、いくつもの古典医学理論に基づく診断ポイントや診断技術が必要になってきます。ここで基本的な理論を少し紹介しましょう。

 人の身体の中を気がある秩序に則って動くものと考えれば、そこに或るルートが存在します。「脈」という字は、こうしたルートを示すものですが、身体の脈に流れるものは「血」であります。古典医学でいう「血」とは、単に血液という意味だけはなく、もっと幅の広い意味合いを持ち、この「血」も当然、気が化成したものであり、気の流れ動く様を表わします。そして、この気血の流れるルートは「経絡」と呼ばれ、中国伝統医学の独自性を際立たせています。「経絡」は、メインルートである十二本の経脈と経脈をつなぐサブルートやバイパスである絡脈、および奇経と呼ばれる八本の別の経脈とからなります。この経絡は臓腑器官と連動しており、重要な診断ポイントになります。これら経脈を流れる気血の状態が、滞りなく全身をめぐり環の端がなきが如く、休むことなくめぐっている状態が正常であり健康と捉えます。逆に、何らかの原因で気の流れが滞ると病気となります。これらの経脈の流れる様子をダイレクトに診断する方法に「脈診」という重要な診断法があります。 

 我々が行っている現代まで続く脈診法の原型は、『難経』という書を基に確立されています。この『難経』では、手首部(寸口)の動脈で身体全体を投影するという特徴的な方法で診察していきます。手首部の動脈部には、手太陰肺経という経絡が流れ、この肺経は摂取した飲食物が気に変化して十二経絡を順行する際の出発点となります。そのため臓腑経絡システムの情報が集約される場所とみなし、この部位の拍動の様子で気血の状態を把握し死生吉凶をうかがうという診断法です。我々が行っている脈診法も『難経』理論に基づく脈診法であります。


 この脈診法をマスターするためには、基本的な中国思想を理解する必要があります。それは、全ての人の身体内部の気は自然の気のうちにあるという「天人合一的思想」を理解することです。この思想は中国思想の始まりであります。ここから中国思想の絶対的根幹をなす「陰陽説」「五行説」の考えが派生しました。この「陰陽五行説」は当然中国伝統医学の分野でも体系化されています。そして、その基本的思想を医学的に体系化した書物に『素問』という原典があります。素とは太素の素で質の始まりとの意味があり、人間生活における自然界との関わりや養生法、病の原因や病のシステムなどにおいて基本的理論を中心に体系化された書物であります。

 我々は、これら『黄帝内経』理論を基に、伝統的な鍼灸術を会得するために、日々臨床の場において切磋琢磨しながら患者さんと向き合っています。そして、臨床の中での疑問点や検討項目を持ち寄り、会員とともに学術理論を構築し、病を治癒へと導く方法を確立せんと集まっている学術団体であります。